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晴乃皐の心赴くままに綴る言葉達
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blog start 20060817



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どうしてだろう、涙が勝手に溢れてくる―――

 

賑やかな雑踏の中で、今まで感じた事の無い程の寂しさに翻弄されながら、俺は溢れてくる涙を止める事ができなかった。

――どうしよう、俺…

涙を拭う事もせずに立ち尽くす俺を、行き交う人はまるで不審者でも見るように遠巻きにしていく。

――俺、寂しいんだ…

自分の気持ちに気付いたところで、行成に対してどうする事もできない。

寂しい事に気付きはしても、その寂しさが一体どこから出てきたものなのか、俺にははっきりとは分からない。

ただ心の中に満たされていく孤独感だけが今の俺を支配していた。

 

「陸?」

 

まさしく俺をこんな状態にした張本人の声が後ろから聞こえて、俺は飛び上がらんばかりに驚いた。

涙でぐしゃぐしゃの顔で振り返ると、そこに知らない女の子と一緒の行成の姿が見えた。

行成は普段の無愛想からは想像も付かない位驚いた顔をして、俺の方へ向かって来る。

 

俺は、思わず行成に背を向けて走り出していた。

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俺は一人、その場に残されたまま、呆然と手元の紙カップを見詰めていた。

――何ショック受けてんだ?俺…

何がショックだったのか、俺には分からなかった。
だけど、何かが俺にショックを与えているのは確かで、ショックを受けている自分自身にも更にショックを受けていた。

俺は午後の講義に出る気を無くして、ふらふらと大学を後にした。

 

街は間近に迫ったクリスマス一色に彩られ、きらびやかなイルミネーションが無数に瞬いている。
通りを歩く人々もどこか浮き足立って、俺は何処か知らない国に迷い込んだような浮遊感に襲われていた。
赤や緑のリボンで飾り付けられたショーウインドウの前を、覚束ない足取りで歩く。

ふと空を見上げると、厚く垂れ込めた雲間から、白い粉がチラチラ舞落ち始めていた。

「雪だ」

俺は粉雪舞う空を見上げながら、世界中で自分がまるで一人ぼっちになってしまったような錯覚に襲われていた。



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その日午前中の講義を終えて、次の講義までどうやって時間を潰そうか学食で考えていた俺のところに、行成がやってきた。
俺の向かいの椅子に当たり前のように座る。

紙カップのコーヒーをすすりながら、俺の目をじっと見詰めて静かに言った。

「バイト先で知り合った女と付き合う事にした」

俺にしてみたらまさに晴天の霹靂だ。
まさか行成に彼女が出来るなんて…。

いや、行成はモテるから、相手がいても全然おかしくないんだけど、先週あんな会話をしていた矢先に行成が彼女を作るとは、全くもって想像もしていなかった。
それともあの会話を上手いこと前振りに使ったつもりなんだろうか?

「へ…へぇー、そうなんだ」

何とも間抜けな受け答えしか出来ない俺を、行成はそのままじっと見詰める。

「陸にはちゃんと言っとこうと思って」
「ああ、うん、そっか、ありがと」
「じゃあ、俺、次講義あるから」

ちょっと困ったような笑みを浮かべ、行成は軽く手を振ると学食を出ていった。



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19年間行成は常に俺の側にいた。家も隣で、家族ぐるみで付き合ってきた。

――でも彼女ができたからってそれが変わるのか?

確かに今までみたいにいつでもツルんでいられる訳じゃなくなるけど、でも、俺と行成の関係が変わる訳じゃ無いのにな。

――やっぱり変なヤツだな。

そんな事考えていた俺は、ふと、思った。

――もしかして、俺に彼女ができたら行成は寂しいのか?

「そんな訳ないか」

最後は口に出して、俺は起き上がった。
行成に聞かれたら、きっと「自意識過剰」って笑われるに決まってる。
我ながら恥ずかしい事を考え付くもんだ、と苦笑した。

 

行成から「彼女ができた」と報告されたのは、それから一週間後の事だった。



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家に帰ってからも、何でだかさっきの行成の言葉が気になって仕方無い。
ベッドに仰向けに寝転んで、じっと天井を見ながら、そればかり考えてしまっていた。

中学生の頃まで、行成はあんなにぶっきらぼうなヤツじゃ無かった。
どちらかと言えば大勢で騒いでる事の方が多い位の明るい性格だった。

実はあの頃は俺の方が背が高かったんだ。
とはいえ、2~3センチだけど。

行成の背が急激に伸び始めたのは中学卒業間際の頃から。
高校1年の終わりには、俺を追い越して見下ろすようになっていた。
それと同時に少しずつ行成の口数は減って、3年になる頃には今の行成キャラが完成されていたんだ。

「一緒にいられなくなっても…か」

今までそんな事考えてもみなかった。



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