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晴乃皐の心赴くままに綴る言葉達
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blog start 20060817



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「鶍の嘴」目次
各話の後に記述してあるリンクより飛ぶ事ができます。
同窓リンク、別窓リンクございますので、お好みの方法でどうぞ。

第1話 同窓 別窓

第2話 同窓 別窓

第3話 同窓 別窓

第4話 同窓 別窓

第5話 同窓 別窓

第6話 同窓 別窓

第7話 同窓 別窓

第8話 同窓 別窓

第9話 同窓 別窓

第10話 同窓 別窓

第11話 同窓 別窓

第12話 同窓 別窓

第13話 同窓 別窓

第14話 同窓 別窓

第15話 同窓 別窓

第16話 同窓 別窓

第17話 同窓 別窓

第18話 同窓 別窓

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 次第に辺りは薄暗くなり、外から吹き込む風もますます涼しさを含んでくる。

 そろそろ夕食の支度をしようかと灯が起き上がると、玄関の開く音が聞こえてきた。

 灯は軽い足音を立てて玄関へ叔父を迎えに出る。

「おかえりなさい」

 笑顔で出迎える灯を見て、叔父はほっとしたように軽く笑みを浮かべた。

「ただいま」

 叔父は手に持った風呂敷包みを灯に手渡すと、靴を揃え、上がり框に置いた鞄を持ち上げる。

「夕飯、帰りがけに買ってきたんだ」

 見ればその風呂敷包みは有名な料理屋の物で、重箱らしき中身からは良い匂いが漂っている。

「担当さんにね、薦められたんだ、その店」

 灯は頷くと、風呂敷包みを持ち、台所に続く居間のテーブルへ運んだ。

 叔父は居間の戸口から顔を出すと自室へ戻り着替えてくるからと灯に告げた。

 廊下を踏む音が次第に遠ざかる。

 灯は風呂敷を解き、重箱をテーブルの真ん中に据えた。そして台所へ行き、二人分の箸と小皿を支度する。

 灯が食卓を整え、茶を淹れていると、着替えを済ませた叔父が居間へ現れた。

「いただこうか」

「はい、いただきます」

 二人は食事に箸を付ける。

 常に静かな食卓ではあったが、灯には息苦しさを感じない、心地良い時間でもあった。

 それは叔父といる時常に感じている心地良さであった。



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 どれ位の時間そうしていただろうか。

 灯がフッと意識を現実に戻すと、窓から差し込む光はやや赤みを帯びて弱くなっていた。

 そして灯は思い出す。

 この家を訪ねてから、森の中で意識を取り戻すまでの空白の時間の事を。

 

 叔父の家に着いたのは、今朝早くの事だった。

 灯はこれ以上無い位疲れ果てていた。

 朦朧とした意識の中で自宅を出、電車を乗り継いでこの街にやってきた。

 駅まで迎えに来ていた叔父へも、簡単な挨拶をしただけで家に到着すると、荷物を置くやいなや「散歩に出る」と、ひとり外へ出たのだった。

 次第に日が高くなりつつある時間だった。

 草いきれ、蝉の声、波の音。

 心配し、玄関先まで見送りに出た叔父の声に軽く相槌を打ったことは覚えているのだが、その時叔父が何を言っていたのか、全く記憶に無い。おそらく今日の外出の事を言っていたのだろう。そしてきっと聞こえていないと叔父はメモを残して出かけたのだろう。

 それでも甥の後を追ってついてくるような事をしない叔父に、今、灯はとても感謝していた。

 これが母なら話を聞かない事にかんしゃくを起こすか、どこまでも灯の後をついて歩く事をするだろう。

 灯は叔父の心遣いに感謝すると共に、今朝の自分の取った態度をとても申し訳なく思った。叔父が帰ったら、屋敷の事を聞く前に、まず謝らなければ。



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 叔父の家に戻ると、部屋の中は薄暗く、叔父は留守にしているようだった。

 居間のテーブルの上に、走り書きされたメモが置かれている。

 

「出版社に打ち合わせに行ってきます。夕方には戻ります」

 

 灯はメモを手に取り、台所に行くと、冷蔵庫から麦茶を出し、コップに注いだ。そしてそれを持って、灯の部屋としてあてがわれた奥の座敷へ向かう。

 田舎の常で、家人が留守であっても風を通す為の窓は開け放たれていて、真夏であるにもかかわらず室内はひんやりとした空気を感じるほどである。そういえば玄関も施錠されていなかったと、灯は自宅では考えられない風習に、若干の戸惑いを感じた。

 灯は窓際に置かれた座卓にコップを置くと、部屋の真ん中に仰向けになり、軽く目を閉じた。

 庭から聞こえる葉ずれの音と蝉の声が体に染み入るように心地良く響く。

 灯は先ほどの森と屋敷の事を考えていた。

 叔父が帰ったら今日の事を話してみようと思う。

 叔父ならばあの屋敷の事を何か知っているかもしれない。



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 まるで獣道のようなかろうじて人ひとりが通れる程の道を、漆喰の壁に突き当たり、左に折れると、十メートルほど歩いたところで突然視界が開け、崖下の海を見渡す事ができた。

 森の側からは見えなかったが、その大きな屋敷には海に面するように石畳を敷き詰めた露台をしつらえてあった。
 
 ちょうど灯の立っている壁の外側の道から露台へ向けて小道が作ってあり、途中には灯の腰ほどの高さの小さな門があった。

 漆喰の壁は崖に面した辺りで途切れ、海側は露台の柵と生垣がその役を成している。

 灯は生垣の上から庭を覗き込むように顔を伸ばしてみる。

 果たしてこの屋敷に住人がいるのか、灯には判断する余地も無かった。

 庭中を木々や草が野放図にはびこり、手入れされているように見えないところをみると空き家なのかもしれない。

 灯は露台から海を臨んでみたい衝動に駆られたが、この日は叔父の家に戻る事にした。



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