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blog start 20060817
「ユキは恋愛に興味無いんだとばっかり思ってたよ」
「何で」
「だってモテない訳じゃ無いのに付き合おうとしないじゃん」
「何も知らない女となんか付き合えねぇよ」
「付き合いながら知るって選択肢は無いわけ?」
「無い」
「あそ」
何でこんな無愛想なヤツがモテるんだか。
女の子達の心理は全くもって理解できない。
「陸は俺に彼女が出来て、一緒にいられなくなっても平気なのか?」
密かに毒付いていた俺に、行成は突拍子もない質問を投げ掛けてきた。
「は?何言ってんの?一緒にって、子供じゃあるまいし…」
「まあ、そうだな」
いつも通りのぶっきらぼうな答えは、その質問の意図をますます判りにくくさせた。
小さい頃はこんなに判りにくいヤツじゃ無かったんだけどな。
行成は、隣り合った家の門の前で別れるまで黙ったままだった。
大学生になって初めての冬が来る――
高校生だった頃、思い描いていた大学生活…。
可愛い彼女と手を繋いで買い物したり、遊びに行ったり…大学にさえ入れば、きっと毎日は薔薇色なんだろうと勝手に思っていた。
現実は、そう甘くないね。
日毎寒くなるのを感じながら、俺の心にもすきま風が吹き込んでくるんだ。
隣を見れば俺より10センチばかり高い長身、お互い生まれた時からかれこれ19年の付き合いになる芦谷行成が、寒そうに背中を屈めて歩いている。
横顔を見上げ、ため息をつく俺に、行成が怪訝な眼差しを向けた。
「何だよ」
「…もうすぐクリスマスも来るってのに野郎とツルんでばっかってのもどうかと思ってさ」
「ふん、そりゃお互い様だ」
行成のボサボサの前髪は、奴の目をほとんど覆い隠していて、ぶっきらぼうな物言いからは表情を伺い知る事ができない。
「お互い様って、お前彼女欲しかったの?」
俺がこんな言い方をするには理由があった。
行成はいつもボサボサの頭に着古したトレーナーとジーンズっていでたちで、常に何やら難しそうな本を難しい顔して読んでばかりいるので、およそ恋愛に興味があるようには見えなかったからだ。
それでも185センチの長身が手伝ってか、全くモテないって事は無いらしい。
大学に入ってから、何度か女の子に告られているのも知ってる。
なのに一度もオッケーしないのは、やっぱり恋愛に興味が無いからだと、俺は勝手に思っていた。
「灯、ちょっといいか、明日なんだけど」
背後からふいに聞こえた声に、灯はハッとして窓にかけた手を離した。
「灯?」
「カーテンを…」
閉めようとして、と言いかけた灯は半ば予想していた窓の外の光景にたじろぎ、息を呑んだ。
そこには誰の姿も無かった。
激しい動悸を抑える事が出来ず、灯は窓枠に手を突いて俯いた。
「どうした?具合でも悪いのか?」
貫が心配そうに覗き込んで来る。
その晩灯は微熱を出して寝込んでしまった。貫はここへ来てからの灯の様子が以前とは全く異なっていた事を感じてはいたが、あえて深くは詮索せずにいた。
灯がこちらへ来てからというもの、毎日のように灯の母である貫の姉から電話があった。灯は迷惑をかけていないか、あまり長く滞在するのは貫の迷惑になるから早く帰るよう伝えて欲しいという内容で、かかって来る度灯に取り次いで欲しいと言われたが、貫はそうしなかった。
姉の灯への執着は、結婚前には自分に向けられていたものだった。悪気は無いのは分かっていても、それを疎ましく思ってしまう心が貫を郊外のこの街へ転居させた。
自分が灯に対して親身になってしまうのは、その姉の執着を現在一身に受けている灯に対する罪滅ぼしの意識が働いているのかもしれないと貫は考えてしまう。
「ごめんな、側にいられなくて」
赤い顔をして眠る灯の寝顔を見ながら、貫は呟いた。